裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案が成立した。
背景
令和3年度人事院勧告で,国家公務員の育児休業について勧告が為されている。育児休業の取得回数を2回にするというものである。
ただしこれは,国家公務員のためのものであり,裁判官は含まれない。国家公務員のための法律改正案は,「国家公務員の育児休業等に関する法律及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」にて,地方公務員のそれは「地方公務員の育児休業等に関する法律及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」にて対応されている。
面白いのは,国家公務員については内閣府が担当なので内閣委員会で,地方公務員については総務省が担当なので総務委員会で審議されている点である。裁判官の育児休業については,法務省が担当なので,法務委員会で審議された。
国会審議
提出時,古川禎久法務大臣は
性別を問わず、職業生活と、子育てを含む私生活を両立できる社会環境の整備が求められる中、法務省では、昨年三月に策定したアット・ホウムプラン・プラスワンに基づき、全ての職員が生き生きと活躍できる職場環境の整備とワーク・ライフ・バランスの実現を推進してまいります。 また、裁判所の組織体制、職場環境を整備するため、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案及び裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案を今国会に提出しましたので、十分に御審議の上、速やかに御可決いただけますようお願いいたします。
と発言している。
趣旨については,
裁判官について育児休業の取得回数の制限を緩和する必要があることから、育児休業を原則二回まで取得可能とすることに加え、子の出生後五十七日間以内に育児休業を二回まで取得可能とするものであります。
と発言しているが,法務省が出している文書と同じである。なぜ緩和する必要があるのかについては述べられていない。
五十嵐清衆院議員(1期・北関東)は,
しかし、育休は子供を授かった際に取得するという不定期なものでありまして、十分な時間的余裕を持って計画的に取得できる性質のものではないと考えております。当然ながら、スムーズな引継ぎも必要となってきます。 そこで、今回、判事補を四十人減員することとしておりますが、裁判官の育休の取得に対して、具体的にどのように対応を考えているのか、最高裁に伺います。
と,育児休暇取得推進と人員削減は矛盾しているのではないかと質問している。小野寺真也最高裁総務局長は,異動や配置換えでなんとかすると述べているが,五十嵐議員は,口で言うほど簡単ではないのではないかと指摘している。
清水真人参院議員(群馬県)は,
男性の裁判官の育児休業取得率につきましては、平成二十八年には僅か五・六%であったとのことであります。これが令和二年には三六・九%ということで、飛躍的に伸びてきているというふうに認識をしております。 今回の法改正によりまして、原則二回まで育児休業を取得可能、さらに、出生後八週間以内に二回取得、いわゆる産後パパ育休というんですかね、これが取れるようになるわけでありますが、これによりましてこの三六・九%というのが私は増えるのではないのかなというふうに思っているんですが、なかなか予測はしづらいと思いますが、どの程度伸びると予測をしているのか。 また、育児休業中の、それぞれの方が持っている手持ちの仕事というのがあると思いますけれども、これが、休業することになるわけでありますが、こうした仕事に対する補佐、また仕事の振り分け等について不都合があってはいけないわけでありますけれども、これをどのような体制で行っていくのか、お伺いをさせていただければと思います。
と質問している。
真山勇一参院議員(2期・神奈川県)は,
でも、やっぱり、見ると、裁判官と一般職でかなり違う。一番最近の数字、いただいた数字見ますと、令和二年度ですけれども、育児休業の取得率、一般職の公務員は六二・四%、でも、裁判官は、先ほど数字出ましたが三六・九%、大体半分ぐらいしかやっぱり休業取れていないということですね。
と指摘している。ついでに年休取得率についても問いただしている。20日付与で,9.45日とのこと。
また,安江伸夫参院議員(1期・愛知県)は,
今回の改正の趣旨を踏まえて、裁判官のワーク・ライフ・バランスの確立を一層推進すべきものと考えます。裁判官につきましても、その職務の性質上長時間の労働になりがちで、自宅に仕事を持ち帰って起案をすることも少なくないかと思いますし、私の裁判官の知人も、やっぱり持ち帰って起案をすることというのは一般的に間々あるというふうに聞いているところでおります。引き続きの改善を求めたいというふうに思います。
と意見している。
高良鉄美参院議員(1期・沖縄県)は,育児休業の取得率などを問い,徳岡治最高裁人事局長から,
令和二年度における裁判官の育児休業の取得率は、女性が一〇〇%、男性が三六・九%でございます。裁判官以外の裁判職員の育児休業取得率は、女性が一〇〇%、男性が六二・四%でございまして、裁判所全体では、女性が一〇〇%、男性が五六・七%ということになります。
と答えを得ている。
結果
この法律案は,衆議院参議院,委員会本会議とも全会一致で可決された。同じタイミングで提出されていた裁判官の定員を減らす法案については,一部反対があった。
育児休業ひとまとめではなく,裁判官の働き方に着目した質疑が為されていた。